不動産取引ガイド

建物状況調査に関する少し深い情報 その3

建物状況調査シリーズです。

改正宅建業法が施行され、にわかに不動産業界が騒がしくなっています。
多くは売却依頼を受けた仲介会社が右往左往しているシーンが見られます。(相談を受けることが多くなっています)

そもそも、改正宅建業法で義務化されたのは建物状況調査(インスペクション)に関する情報提供であって、建物状況調査(インスペクション)の実施は義務ではありません。

今回は売主側の視点で説明したいと思います。

はっきり言って現時点では、売主が建物状況調査(インスペクション)を実施する能動的な理由がありません。(※売主が個人の場合)
建物状況調査(インスペクション)は有償の調査ですが、調査を行ったからと言って物件が高く売れるわけではないからです。
制度が浸透すれば、建物状況調査(インスペクション)を実施していれば売りやすい、早く売れるといったメリットが出てくる可能性もありますが、多くの物件が建物状況調査(インスペクション)を実施していない現状では、あまりメリットがありません。

建物状況調査(インスペクション)は良いことだけが報告される訳ではありません。場合によっては売主も気づいていない不具合が発覚する場合もあります。
そして、実施した建物状況調査(インスペクション)の結果について、内容が良くなかったからと言って買主へ伝達しない(隠ぺいする)わけにはいきません。

よくある相談で、耐震診断の問題があります。
買主側の場合は、耐震診断の実施を推奨します。これから長く住む家なので、最低限耐震性能は確保するべきだからです。

ただ、売主側では、少し冷静に判断する必要があります。
耐震診断は有償です。そして、多くの場合、耐震診断を実施すると「基準を満たさない」という結果になります。耐震改修には150万円くらいかかる場合があります。

耐震診断を実施すると、重要事項説明時にその内容について買主へ説明する義務が宅建業者に生じますが、耐震診断結果報告書の内容は建物状況調査のようにわかりやすい内容ではないので、耐震に詳しい方でなければ適切に説明することは難しいと思われます。

多くの宅建業者は、耐震診断を実施すれば、住宅ローン減税の手続きに使う「耐震基準適合証明書」が発行されると勘違いしています。
大切なのでもう一度書きます。
耐震診断を実施すると、多くの場合、耐震改修工事が必要と判断されます。そして耐震改修工事は安くありません。

インスペクションと同じで、耐震診断も実施が義務ではありません。
売主が知り得た情報は開示しなければなりませんので、売主は少し冷静に判断する必要があると思うのです。

周りの雰囲気を見ながら、とりあえず売却活動を始めて、一定期間売れなかったらインスペクションなどを実施してみる、それでも売れない場合は、かし保険が付保できる程度の補修を行う、など順を追って対応するのが自然な流れだと思います。
一見すると買主に対して不義のように思えるのですが、売主は売主の利益を追求するべきで、買主は買主の利益を追求するべきで、取引において、売主が何でもするべきだと判断するのは少し「行き過ぎ」だと思います。
※同様の理由で、売却にあたってお色直し的なリフォームを進める事業者が多いですが、売主側でリフォームしても、気に入らなかったら買主がリフォームし直すだけなので、無駄ですよね。

インスペクションの重要性は築年や構造でも変わってきます。売主側の「インスペクションするべきだ」は少し冷静に判断した方が良いのではないか?と思います。

リニュアル仲介の稲瀬でした。

***************************************************

■不動産の資産価値を即座に判断

セルフインスペクションアプリ「SelFin」

https://self-in.com/ (ご利用は無料です)

**************************************************

 

「住宅リフォーム実例調査」をご存知ですか?そこから見えてきたリフォーム二極化の時代?!前のページ

「建物状況調査(インスペクション)」の担い手となるための資格取得講習会 6月26日からスタート!次のページ

ピックアップ記事

  1. 危険な場所は 地形図で見分ける
  2. 建物インスペクションを実施する最適なタイミングとは?
  3. 住宅購入と 生涯の資金計画
  4. 住宅購入は不安でいっぱい
  5. 土地価格の相場を知る方法

関連記事

  1. 不動産取引ガイド

    敷地境界にブロック塀がある場合の注意点(その①)

    戸建てを買おうとした住宅の敷地と隣地との境界にコンクリートブロック塀が…

  2. 不動産取引ガイド

    お隣さんと住所が一緒 住居表示のカラクリ

    戸建てを購入した際に、お隣の家と住所が一緒で驚かれる方がいらっしゃいま…

  3. お金・ローン・税金

    『同じ借入額でも数百万の差!? フラット35「S」金利引下げ幅拡大終了』

    長期全期間固定金利(フラット35)で住宅の融資を検討されている方は、必…

  4. 不動産取引ガイド

    住宅基礎の種類!

    住宅はいつ起こるか分からない地震に耐えぬく家にする…

  5. お金・ローン・税金

    住宅ローンを組む際に注意すべきポイント

    住宅購入を検討しているが方から「転職を考えている」「夫婦で住宅ローンを…

  6. 不動産取引ガイド

    「新耐震なら大丈夫」を過信してはいけません

    中古物件を検討する場合に築年数が気になると思います。築年数は「劣化…

  1. 不動産取引ガイド

    買った家に一生住み続けなければならないって重たくないですか?
  2. 不動産取引ガイド

    不動産購入の価格交渉術
  3. 不動産取引ガイド

    はしご車は何階まで届くか?
  4. 不動産取引ガイド

    相続空き家、売るなら早く 、4月からは3000万円まで控除される?!
  5. 不動産取引ガイド

    リフォーム減税を知っていますか⁉
PAGE TOP